AI は敵か味方か -HEROZ 林隆弘-

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イーロン・マスクとマーク・ザッカーバーグが対立するなど、今後のAIについて「人類の敵か味方か」という論争が巻き起こっています。今回、AIテクノロジーを活用して様々な領域に挑戦している、HEROZの代表取締役CEO・林隆弘氏に今後のAIについてお話をお聞きした。

『AIに仕事が奪われる!』って、そんなにみんな仕事がしたいんでしたっけ?

薮崎 「かつてないほどテクノロジーの発達・発展が加速していると言われていますが、今のテクノロジーをどう見られていますか?」

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林 隆弘
HEROZ株式会社 代表取締役
1999年早稲田大学卒業。アマチュア一般棋戦等、個人での全国優勝は7回経験。羽生永世七冠との席上対局実績もあり。日本電気株式会社(NEC)技術開発職として入社し、IT戦略部や経営企画部に在籍。2009年4月に高橋知裕と共にHEROZ株式会社設立。将棋AIに着目し、AIを活用した「将棋ウォーズ」というオンライン対戦アプリを展開。現在は名人に勝利した将棋AIの技術を活用した「HEROZ Kishin」で各種産業にAI革命を起こし、世界を驚かすサービスを創出していくことを目指している。

 「ブロックチェーンや量子コンピューティングなど、少し前なら考えられなかったテクノロジーが出てきていて、我々の想像を超えてきているという過渡期な状況だと思います。今のテクノロジーってものすごく破壊的なんです。量子コンピューティングによって今までの暗号が簡単に解読される懸念があるので、暗号の概念を考え直す必要が出てきていますが、こうしたさりげなく出てきたようなテクノロジーが、実はものすごい破壊力を持っているんですよね。」

薮崎 「AI(人工知能)もそうですよね。古くからある概念ですが、ディープラーニングがすっと出てきてから、急激に発達してきています。」

 「そうですね。ただ、AIというのはもうすでにブームという段階ではなくて、電気やガス、水道のように社会にどんどん溶け込んでいくテクノロジーであることは間違いないです。」

薮崎 「私は『ITはインフラのインフラになる』と言ってきたのですが、まさにAIもそうなってきていると感じます。」

 「AIは本当に様々な分野に融け込んでいっていますし、それぞれの領域で別のテクノロジーやデータを組み合わさることによって、より新しい価値が生まれています。だから本当に日進月歩が凄まじくて、日々新しいことに挑戦していかないと、すぐに置いていかれるというような危機感はありますね。」

薮崎 「AIなどのテクノロジーによって人間の仕事が奪われる、という意見もありますが、林さんはどのように考えていらっしゃいますか?」

 「僕は『あれ?みんなそんなに働きたいんだっけ』と不思議に感じています(笑) もっとAIを活用して、楽できるところは楽した方がいいと思っています。10年後、20年後は、今の我々が想像していなかった仕事がメインストリームになっているんじゃないでしょうか。」

薮崎 「自動改札やETC、昔だと自動車など、新しいテクノロジーの登場でなくなった仕事もありますが、それによって全ての仕事がなくなるわけではないんですけれどね。」

 「そうですね。つらい、キツいなどのやりたくない仕事は、AIに任せられるのであれば任せた方がいいと思います。実は、HEROZでも将棋ウォーズの運営等でAIに24時間365日監視をしてもらい効率化を図っています。自分がもっと好きなことをやれる、という世の中にしていく方がいいのではないでしょうか。特に、今後の日本は人口が減っていくので、“自動化”をうまく活用しないと、社会が回らなくなってしまいます。コンビニなどはすでに取り組みが盛んに行われていますが、我々の生活圏において、どんどん無人化が進んでいくのだろうと思っています。」

※HEROZが使用している監視AIはこちら

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AIが出した答えを、IQ 100程度の人間が理解することなどもはや不可能

薮崎 「2017年に、AIが脅威となると警鐘を鳴らすイーロン・マスクに、マーク・ザッカーバーグが疑問を呈して対立するということがありました。超知性やシンギュラリティなどが叫ばれており、AIは人類の敵か味方かという論争が起こっていますが、林さんはどのように考えていらっしゃいますか?」

 「人類とAIは共存していけると思います。ただ、人類がAIのやることを完全に理解してコントロールすることは不可能でしょう。『人間にはAIの出した結論の意味や意図はわからないけれど、正しいはずなのでAIの指示に従う』というような未来が起こり得ると考えています」

薮崎 「どういうことでしょうか」

 「人間が考えられることってたかが知れているんです。わかりやすいのでIQでお話しすると、普通の人はIQ100くらいで、IQ130を超えると天才なんて言われたりします。でもAIは、2045年頃には、IQが1万くらいになっているかもしれない。そう考えると、人間って本当に狭い世界でしか生きていませんよね。」

薮崎 「『IQが30違うとコミュニケーションが成り立たない』なんて言われますが、100倍違うともはや理解不能でしょうね。」

 「そうですね。囲碁や将棋の世界では、すでに人間よりもAIの方が圧倒的に強くなっています。なので、AI同士を将棋で対局させると、我々からすると“普通はありえない”ような手を指すことがあります。しかも1秒間で何千何万という手を検討しながら、365日24時間学習し続けるので、どうしてそういう手を打ったのか、ますます人間には理解できないレベルになっています。囲碁や将棋の世界で見てきたそうした景色が、他の領域でも今後起こるだろうなと思っています。」

薮崎 「なるほど。AIの指示は、現時点ではもっとも正しいものであるはずなので、人間としては、理解はできないけれど従うべきものということになりますね。どこまで人間側がそうした意思決定の手綱を握っておくか、という判断も必要になるでしょうね。」

 「はい。AIが人類の脅威となる可能性はゼロではないとは思います。しかしIQ 1万のAIが考えることは、IQ 100程度の人間にわからないのは当たり前です。人間には理解できなくても、結果が出ているのであれば認めざるを得ないという分野は、間違いなく出てくるでしょう。たとえば、銀行のシステムとしてAI が与信判断を行い、それが抜群の結果を出しているとします。『なんでそうなるんだ』と考えたところで、理解できないことが出てくるでしょうし、法的に問題が無ければ結果が出ているのだから別にいいじゃないか、とも思います。」

薮崎 「あとはもう納得感の問題というのも大きいでしょうね。HRテックの分野では、AIが企業と求職者のマッチング度合いを判定してくれるなどのサービスも出て来ていますが、やはり会って数十分話さないと納得はされないだろうなとも思います。」

 「そういった“人間として”の納得感や倫理観というのは、科学の進歩において、常に表裏一体となっています。『AIは敵だ!』と不安ばかり煽るのではなく、AIが味方になるように、建設的な議論が今後も必要になってくると思います。」

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※インタビュアー:薮崎 敬祐(やぶさきたかひろ) 株式会社エスキュービズム代表取締役社長 2006年にエスキュービズムを創業し、IT、家電、通販、自動車販売など様々な事業を展開してきた。現在は、今まで培ったテクノロジーを組み合わせて、小売企業の課題解決を行うリテールテックカンパニーとして躍進。「あったらいいな」ではなく「なければならない」領域に、新しい仕組みを提案している。