飛べなかったHAKUTO。月への挑戦はどうなるのか ーispace 袴田武史 ー

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月面探査を目指すispace。2017年12月に100億円超の資本調達を行った一方、2018年1月には打ち上げが間に合わないという理由でGoogleがスポンサーする月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」でのミッション達成が困難と発表するなど、とにかく話題になっている。今回は代表取締役の袴田武史氏に、今メディアで取り上げられていることの状況と、今後の展望についてお聞きした。

HAKUTOは今後どうなるのか

薮崎 「昨年12月の大型調達のニュースの後すぐ、2018年1月に、3月までのHAKUTOは打ち上げができないというニュースを拝見しました。現状どのようなことになっているのかについてお聞きできればと思います。」

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袴田武史
子供の頃に観たスターウォーズに魅了され、宇宙開発を志す。ジョージア工科大学で修士号(航空宇宙工学)を取得。大学院時代は次世代航空宇宙システムの概念設計に携わる。その当時、Ansari XPRIZEにより民間有人宇宙飛行が成功し、民間での新しい宇宙開発時代の到来を感じる。民間での宇宙開発では、経営者が必須になると考え、大学院卒業後、外資系経営コンサルティングファーム勤務。プロジェクトリーダーとして幅広い業種のクライアントにコスト戦略および実行を中心にコンサルティングサービスを提供。2010年よりGoogle Lunar XPRIZEに参加する日本チーム「ハクト」を率いる。

袴田 「我々は月面探査のために、HAKUTOっていうプロジェクトチームを作って、グーグルがスポンサーをする「Google Lunar XPRIZE」に参加しています。その打ち上げが、当初3月のレースの期限までに打ち上げる予定だったのですけれども、それが少しスケジュールがずれそうだということがわかって、そのことを発表したんですね。その発表をするきっかけとなったのがインドのメディアの英語記事で『チームインダスもHAKUTOも、Google Lunar XPRIZEから脱退する』というものでした。」

薮崎 「チームインダスは、HAKUTOと一緒にミッションを行おうとしていた、Google Lunar XPRIZEに参加しているチームですよね。チームインダスから連絡があったのではなくて、その記事で知ったのですか?」

袴田 「リークの記事のようで、もちろん我々も認知していませんでしたし、チームインダス側も公式に発表したわけではありません。内部者によるものかどうかわかりませんが、3月の打ち上げが出来ないという話が突然出て、こちらも緊急で対応しなければいけないと記者発表を行いました。」

薮崎 「打ち上げる予定だったロケットは、チームインダスのものなのでしょうか?」

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※着陸船イメージ

袴田 「チームインダスが契約しているインドの宇宙機関が、開発しているロケットなんです。そのロケットに乗るチームインダスの着陸船に、相乗りさせてもらおうと考えていました。」

薮崎 「そのロケットが打ち上げられなくなった、ということですか?」

袴田 「打ち上げられなくなったわけではないのですけれども、打ち上げる時期の決定が難航していて。当初予定していた3月のミッションを実現できるようなタイミングで打ち上げるのが、少し厳しそうだという状況なのです。」

薮崎 「現状の記事だとチームインダス自体がもう活動を続けられない、というような風潮になっていたと思います。チームインダス自体も、まだ継続しているのですか?」

袴田 「はい、チームインダスも継続しています。最初、記事では『ほんとにもうこれで全部終了です』みたいな書き方をされていましたが、それは事実とは違います。我々としてもチームインダスとしても、これだけの長い時間をかけてチャレンジしてきているので、ちょっとやそっとでやめることはありません。ちゃんと実現できる道を探しています。」

薮崎 「Google Lunar XPRIZEが期限通りにレースを終了することを発表しましたが、主催者側は延期という選択を取らなかったんですね。」

袴田 「我々もGoogle Lunar XPRIZE側にレースの延期を要請をしていたのですが、何回も延期を重ねてきたことから主催者側にとって新たな延期という判断が難しかったのではないのかなと推測しています。」

薮崎 「Google Lunar XPRIZE側としても、HAKUTOが最有力候補だったのかもしれないですね。ちなみにもしレースが続いていたとして、ロケットについて、チームインダス以外の選択肢はあったのでしょうか?」

袴田 「3月中に飛ぶとなると、インド以外の選択肢というのは不可能です。というのも我々のローバーは、インドの着陸船に乗れるようにカスタマイズしてあるのです。そのため、他の着陸船に乗ろうとすると仕様を変更しなきゃいけなくなるのです。」

薮崎 「それは大きさが、ということですか?」

袴田 「大きさは大きく変わらないと思います。着陸船との結合部分ですとか、インターフェースとかが変わってきてしまうので、それに伴ってまた開発が必要になります。そうすると、そんなに短い時間では開発はできないので。基本的には不可能だと考えています。もちろん長期的に見ると、他のロケットも視野に入れていますが、まず直近の打ち上げとしてはチームインダスと組むことが今でも現実的だと思います。また他のチームも打ち上げが間に合っていないという現状を考慮すると、チームインダス以外のチームと相乗りをしていたとしても結果は同じだったと考えています。」

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打ち上げにかかる費用は、1kgあたり1億数千万円

薮崎 「組んでいるチームインダスは、どのようなチームなのでしょうか?」

袴田 「大きな仕組みとしては、ロケットで着陸船を打ち上げるんですね。で、その打ち上げるロケットをインド政府が開発していて、その中に乗る着陸船をチームインダスという民間チームが作っているのです。」

薮崎 「着陸船のなかに、HAKUTOのローバーが相乗りするということですよね?」

袴田 「そうですね。チームインダスの着陸船の中に、HAKUTOのローバーも載せて、ロケットで飛ばします。」

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※ローバーのイメージ

薮崎 「そもそもの話なのですが、Google Lunar XPRIZEにおいてはライバルなのに、チームインダス側はどうしてOKしてくれたのですか?」

袴田 「これはすごく面白いところで、Google Lunar XPRIZEは、もちろんレースなのですけれど、みんながある意味、挑戦者仲間みたいなところがあります。もちろん誰かが優勝することが重要なのですが。あとは現実的なことを言うと、我々も相乗りのために費用を払うので、彼らとしてもビジネスとして成立しているのです。」

薮崎 「打ち上げだけでも相当な金額になるのでしょうね。」

袴田 「着陸船やロケットのコストもすべて含めて、打ち上げから月面まで届けてくれる輸送費は、1kgあたり1億数千万円くらいかかります(アメリカの月輸送事業を行う民間企業。チームインダスとの打ち上げ費用は非公開)。ロケットで軌道まで打ち上げるだけだったら、1kgあたり百万円とか二百万円とかなのですが。やはり燃料費がすごいかかるので少なくてもそれくらいの金額にはなってきてしまうのです。」

薮崎 「今回は一度月に行ったローバーは、地球には戻ってこないんですよね?」

袴田 「そうですね。月面に置きっぱなしです。将来人間が行くようになれば、これを持って帰ってきてくれるかもしれません(笑)」

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調達資金約100億円の使いみち

薮崎 「約100億円を2017年の年末に資金調達していましたが、どのような使い方をされるのでしょうか。」

袴田 「HAKUTOのチャレンジとは別で、今後の事業化のために約100億円を集めました。産業革新機構や日本政策投資銀行、民間企業などから支援いただいています。その資金を使って、我々は今後着陸船を開発していこうと考えています。HAKUTOはインドの着陸船に頼っていますが、今後月の周りで事業していこうとすると、月面に輸送するというニーズがあるので、それを我々でコントロールできるように作っていきたいのです。さらにその先に、『月での資源開発』ということまで見据えています。」

薮崎 「それでは打ち上げまではやらないということですね。」

袴田 「そうですね、やらないです。ロケットは一桁また金額が変わってきます。もちろんインドも候補には入っていますが、商業的に圧倒的に打ち上げが成功しているのが、ヨーロッパかロシアかスペースエックスなどで、その中で検討したいと考えています。日本もあるにはあるのですが、高いので。」

薮崎 「つまりHAKUTOの挑戦は、ispaceとしてはあくまで事業の一通過点ということなんですね。」

袴田 「その通りです。2020年までのロードマップを描いていまして、そのMission0として位置付けているのが、HAKUTOです。我々独自の着陸船を開発してやるのが2019年から2020年です。」

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※月へのロードマップ。実際にはMission11まで記載されている。

薮崎 「あと2、3年ということは、月着陸が、東京オリンピックくらいですね。」

袴田 「そうですね。結構開発の期間は短いので 急ピッチで進めています。」

薮崎 「今回の100億円もの資金については、Missionだとどこまでに使い切る予定ですか?」

袴田 「Mission2までです。通常であればまずはMission1のみの投資になるのですが、今回投資家さんにもかなりリスクを取ってもらって、Mission1とMission2を一緒に投資してもらっています。グローバルで見ると2020年くらいから商業的な月の輸送サービスって始まってくるのです。宇宙事業って先行者利益が非常に大きいので、この時間軸に合わせてファーストグループと同じタイミングに実現するということが大事なのです。そうするとMission1の結果を待っていたらMission2が間に合わないので、一緒のタイミングでの資金調達となりました。」

薮崎 「2020年にみんな月に行き始めるということですか?」

袴田 「そうです。それくらいのスピードで、グローバルでは競争が進んでいるのです。」

薮崎 「他のプレイヤーとの違いはどのあたりにあるのでしょう?」

袴田 「例えばですが、プレイヤーによって打ち上げの頻度を、年1回なのか年に数回やるのかになどが異なります。ispaceは1回で30kgの荷物を複数回打ち上げあげようと考えていますが、他のプレイヤーは2~300kgの荷物を1回で打ち上げようとしていたりします。月面着陸の技術って地上で検証できないので、年に1回よりも毎月やってどんどん実績を作った方が信頼性を高める近道だろうと考えています。」

薮崎 「ちなみに100億円が決まった背景はどうなのでしょうか?」

袴田 「リード投資家と議論して決めました。価格もフィックスして全社にお願いしています。その100億円もマイルストーンじゃないので、単発で入れてもらっています。」

薮崎 「転換価格とか変わらないのですね。相当リスクをとっていますね。HAKUTOのパートナーはこれとは別で、株主ではないということですよね?」

袴田 「そうですね。一部株主になっていただいていますけれど。」

薮崎 「今回のあの発表について、HAKUTOのパートナーはどのような反応なのでしょうか?」

袴田 「HAKUTOの3月打ち上げが難しいこと、そしてGoogle Lunar XPRIZEのレース自体の終了については、もちろんこれからどうするかについて話し合っていかなければなりません。ただありがたいことに、我々の『チャレンジをし続ける』ということにサポートしてくれているので、逆に今挑戦を辞めてしまう方が期待を裏切ってしまうことになると思っています。」

薮崎 「このHAKUTOのローバーは今後も使っていくのでしょうか?」

袴田 「Google Lunar XPRIZEで飛ばしたかったのですが、今後Mission1、Mission2、それ以降と、我々の着陸船がこのサイズのローバーを2台くらいは積めるようにしたいと考えています。」

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※インタビュアー:薮崎 敬祐(やぶさきたかひろ) 株式会社エスキュービズム代表取締役社長 2006年にエスキュービズムを創業し、IT、家電、自動車販売など様々な事業を展開。「あったらいいな」ではなく「なければならない」領域に、新しい仕組みを提案している

 

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