薮崎 「ispaceの社内ってどのようになっているのでしょう?今回のHAKUTOとしての決断とエックスプライズの発表について、けっこう衝撃が走ったのではないですか?」
袴田 「社内の開発体制としては、HAKUTOのローバーを開発しているチームと着陸船を開発しているチームがいます。今回のエックスプライズの話は、ローバーを開発しているチームが一番影響を受けました。3月の打ち上げに向けて開発を終わらせられるように、かなり時間を使って最後の詰めをやっていたので、エンジニアとしては悔しい思いはもちろんあると思います。ただ、HAKUTOでの実現は難しくなりましたが、今後の日本そして世界における次世代の宇宙開発に向けて、ここまで開発されたローバーは十分に意味があると考えています。」
薮崎 「ispaceとしての社員は何名くらいなのでしょうか?」
袴田 「開発チームは30数名です。どんどん増えています。HAKUTOには、10名くらいのエンジニアが関わっています。他にプロモーションなどを担うプロボノというボランティアメンバーが70人ほどです。あと、HAKUTOは東北大とも一緒にやっていて、東北大の研究にかかわっている学生が10人弱くらいいたりします。」
薮崎 「結構いるんですね。社員に外国人とかもいますよね?」
袴田 「今社員は全部で40人くらいいるのですが、半分くらいは外国人になってきています。特に着陸船を開発しているエンジニアは7割、8割外国人です。欧米出身者がほとんどで、社内公用語が英語になっています。」
薮崎 「比較的若い方が多い印象がありますね。」
袴田 「メインは30代ですね。ただ、結構シニアな人もいて、着陸船の開発エンジニアのリーダーは今60代くらいです。アメリカ出身で、ずっとアメリカでロケット開発をしてきて、我々のビジョンに共感して日本に移住してきました。」
薮崎 「特殊な業界だと、採用はすごく難しそうですよね。それってどちらからアプロ―チしたのですか?」
袴田 「もともと知り合いだったんですが、彼から『新しいチャレンジをしたい』とアプローチがあって来てもらいました。ちょうどispaceも着陸船のリーダーを探そうとしていたので、すごくいいタイミングだったんです。」
薮崎 「いろいろな役割の人が関わっていますよね。エスキュービズムもかなりいろいろな職種があるので、人事制度の作成が非常に難しいのですが、ispaceの社員のフィーはどのように決めているんですか?」
袴田 「給与テーブルを決めていて、一応レンジは広くとってあります。やはり日本の給与水準はこうした事業には合わなくて、さすがにシリコンバレーの基準にあわせる気はないんですけれど、心配にならないような条件にはしていますね。」
薮崎 「みんな紹介とか知り合いとかで来ているのですか?」
袴田 「紹介の場合もあるんですけど、最近ではネットで募集をしています。」
薮崎 「どういうところで募集するものなのですか?」
袴田 「日本のサイトにはあんまり載せていなくて、海外のサイトで募集の広告をしています。毎日2~3通くらい申し込みがあるんです。言い方があれですけれど、よくこんな島国のスタートアップに来てくれるなって(笑)。しかも今いる人たちのほとんどが、100憶円を調達が決まる前からいるんです。しかもスカイプのミーティングくらいで入社を決めてきたりと、すごいリスク取って来てくれるなと。」
薮崎 「マネージメントがすごいですね。」
袴田 「ミッション・ビジョンが明確なので、それに向かってコミットしていこうとまとまりやすいんです。国の宇宙開発って、時間はかかるし、システムがどんどん大きくなるので自分が担当できるのは一部になってしまうし、ほとんど書類処理しかなくなってハンズオンで開発とかもしないのです。なので海外からも、『ispaceであれば手を動かして速いスピードでやれる』と思って、応募してくる人が多いですね。」
薮崎 「私もいろいろと新しいことを仕掛けていくのが好きなのですが、そういったときに資金だったり、技術だったりといった外部のパートナーって、はたからみると簡単に見つかったと思われがちなんですよね。HAKUTOにも錚々たるパートナーさんがついてますが、結構集めるのに苦労されたのではないですか?」
袴田 「かなり大変でした。」
薮崎 「いいアイデアさえあれば、トントン拍子にうまくいくみたいに思われますが、けっこう地道で泥臭いことを裏でしているんですよね。」
袴田 「有難い出会いがあったというのはあったんですが、候補リストは100社以上あって、実際に数えられないくらいの企業に会ってプレゼンしました。初期のころは直筆の手紙を送ったりして、200社くらいにはアプローチしたと思います。5、6年くらいかかりましたね(笑)。」
薮崎 「ずっとパートナーを集め続けていたということですよね?」
袴田 「2010年からHAKUTOのプロジェクトは進んでいたので、その頃から開発と並行してパートナー集めは行っていました。初めてパートナーになっていただいたのが、IHIさんで2015年でした。さらにそこから1年半くらいかけて、今のパートナーから支援をいただくことができました。」
薮崎 「相当大変ですね。『費用対効果はどうなるのか』とかいろいろ聞かれたんじゃないですか?」
袴田 「そうですね。現場から上げていってもやはり決まらないので、直接経営層にお会いできるかが重要でした。」
薮崎 「Zoffさんもパートナーなんですね。」
袴田 「実は最初、我々がアプローチする企業候補に入っていなかったんです。あるテレビ番組で、『Zoffさんの眼鏡のフレームの素材が、我々のローバーのタイヤの素材と一緒』ということを言ったんですね。そうしたら番組担当者がZoffさんに連絡を取って確認してくれたらしく、Zoffの担当者の方がずっと気になってくれていたらしいんです。それで『一度お話しできませんか?』ということになりました。」
薮崎 「オーナー企業ならではの決断ですね。」
薮崎 「素朴な疑問なんですけれども、現代ですら月への進出はこんなに難しいのに、50年前にどうしてアポロは月に行けたのでしょうか。そもそも本当にアポロは月に行ったのかなと。」
袴田 「自分は行ったと信じています。信じていますけれども、ネタ的にいつも言っているのは、本当にアポロ11号が、11号として行ったかどうかは分からないかな、と。」
薮崎 「いつ行ったかは分からないということですか?」
袴田 「『アポロが月へ行っている』ということは、月の週刊衛星の写真で痕跡が残っているので本当かなと思います。まぁ、そこまでNASAがフェイクで作っていたら、面白い話なんですけど。」
薮崎 「どこまで正確にわかるのでしょうか?」
袴田 「今、最高の画質でいうと、解像度が50㎝くらいまで見えます。写真としても、アポロ17号に関する写真は残っているし、月面にもローバーが走った轍が映っているので、行っていることは間違いないと思います。」
薮崎 「なるほど。行ったことがあるのは確かなんですね。でもどうしていまだに50年前から、月への進出は進んでいないんですか?」
袴田 「いろいろな意見があって明確なことは難しいんですけれど、1つはやっぱり軍事の競争というインセンティブが、アポロの時はあったというのが大きいかなと思います。現在は、それだけお金をかけるインセンティブがなくなってしまっています。また、科学的にもアポロの時にいっぱいサンプルを持ち替えってきたので、それで研究がいろいろ出来て、すぐに行く必要がなかったというのもあると思います。そして3つ目として、研究した結果、月にはあまり資源がないっていう結論が出てしまったので、行く理由がなくなってしまったことがあるかなと。」
薮崎 「それではispaceとしては、月へ行く一番のインセンティブは何になるのですか?」
袴田 「ただ『月には水がある』というのは、昔からささやかれていて、最近になってその証拠が少しずつ出てきたので、また月に行こうという機運が高まっています。Mission2までは、情報と輸送サービス構築に向けた技術検証となるのですが、Mission3以降は水探査を中心とした活動になります。」
薮崎 「なるほど、水資源の探査がメインになるのですね。」
袴田 「水は水素と酸素に分解することでロケットの燃料になることから『宇宙の石油』とも呼ばれています。一年中太陽の光が当たらない『永久影』と呼ばれる地域が月には存在していて、ここに水が個体として保存されている可能性があるのです。また、月の水を調べることは、月の誕生の秘話を知ることにもつながるかもしれません。実際に行ってみないとわからないことだらけなのです。」
薮崎 「実際にMission2で月面着陸する予定とのことですが、ぶっつけ本番になるんですよね?テストしようがない気がするのですが。」
袴田 「そうですね。レゴリスと呼ばれる月の砂の状況など、月面の正確なデータがないので仕方ないところです。アポロが50年前に行って以降は人類は誰も行っていないので、西側諸国も含めてデータが不足していて、そういうデータがないとなかなか計画とか設計とかができない状況にあるんです。なので、データを欲しいというニーズもすごいありますね。だからこそ、Mission1と2で確実に着陸のノウハウをつかみたいと考えています。2019年にMission1として月周回を目指しています。着陸船をちゃんと作って打ち上げて、周回すればまずは合格にしています。2020年にMission2として月面着陸にチャレンジしたいなと考えています。Mission1は失敗も見込んでいて、もし失敗したとしてもそれをMission2に活かしていきます。」
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