世の中を魅了するPR 〜 星野リゾート・星野佳路 × 近畿大学・塩﨑均〜

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ホテル・旅館経営に次々と革新を起こしている星野リゾート代表・星野佳路氏と、世界初のマグロの養殖やユニークな広告で話題の近畿大学学長・塩均氏に、世の中を巻き込み魅了していくためのPR(パブリックリレーション)についてお聞きした。

伝わらないと意味がない

星野 「近大は、広告も含めPRにおいてかなり攻めていらっしゃるように思います。」

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星野佳路
星野リゾート代表。1960年生まれ。慶應義塾大学卒業。米国コーネル大学ホテル経営大学院で経営学修士号を取得。91年、家業である老舗旅館「星野温泉旅館」の4代目社長に就任。日本の観光業が変革期を迎えていることを見通し、施設所有にこだわらない運営特化戦略を進める。95年に社名を星野リゾートに変更。

塩﨑 「学生やその親、さらには関係者が『近大でよかった』と思える環境作りをしていまして、その一つの手段がメディア露出です。まず、世の中とより多くの接点を持てるように発信量を意識しています。実はプレスリリースを年間で450本以上出しているのです。近大は総合大学で、14の学部があり、学生は約3万人以上が在籍しており、情報の宝庫なのです。こうした近大の総合力を、産学連携で活かしたり、周りと共有することが大事だと思っています。

星野 「すごい数のプレスリリースですね。世の中との接点をいかに増やすかを意識されているのですね。」

塩﨑 「そうですね。他にも教員の研究成果やOBの活躍など近大に関係する記事をまとめたメディア『Kindai Picks』や近大マグロを提供する飲食店『近畿大学水産研究所』の運営など、本当にたくさんのアプローチを行っています。」

星野 「伝えることと伝わることは異なります。伝わらないと意味がないと考えているのですが、情報発信する上で『どう伝えるか』について意識されていることはありますか?」

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※近畿大学の「早慶近」というコピーを使った広告

塩崎 「近大がメディア露出において、発信量の他に意識していることが、伝える内容です。固定概念というのも造語です。本当は『固定観念』や『既成概念』という言葉が正確なのですが、あえて固定概念という言葉を使っています。いろいろ検討したのですが、現状を打破しようと挑戦している人にとってインパクトがあり、一番共感できる言葉だと思っています。また、広告では、伝えたいことをより目立たせることが、伝わることにつながると考えています。現状の大学の序列への近大の提案として「早慶近」というコピーを使った広告を出しました。『THE 世界大学ランキング』で一定以上の評価をされた日本の私立総合大学を頭文字でくくると、早慶近となるのです。批判の声もありますが、近大のメッセージがより多くの人にしっかりと伝わったのではないでしょうか。」

星野 「私は『これからの100年は、旅産業が平和維持産業となり、世界の人たちを友人として結んでいく。国と国が平和を維持する力になっていく。』と言っています。大げさに聞こえるかもしれませんが、それくらいの気概であることを発信することが大事だと考えています。以前は、『日本の観光をやばくする。』と言っていました。しっかりとした言葉で伝えていたのですが、若手社員が『それではよくわからない』というので、やばいという表現にしたのです。どう伝えると伝わるのかは常に考える必要がありますね。」

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社内をきちんと巻き込むことが、世の中を巻き込むことにつながる

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塩﨑均
近畿大学学長。医師。1944年生まれ。和歌山県出身。70年、大阪大学医学部卒業。78年、西ドイツ・ハイデルベルク大学に留学後、大阪大学第二外科助教授、近畿大学医学部第一外科教授、同大学医学部附属病院長、近畿大学医学部長などを務めたのち、近畿大学学長に就任。専門分野は上部消化管外科学。

塩﨑 「星野リゾートも全国に旅館やホテルがあると思いますが、『らしさ』を維持するために工夫されていることはありますか?」

星野 「施設毎にスポーツクラブなどは実施していますが、全社的な施策として、星野リゾートを盛り上げていこうというイベントはしていません。

   ただ、経営に関する情報共有はしっかりとしています。産業の中でも観光やサービス業は特殊だと思っています。スタッフ1人1人がお客様とダイレクトに接するので、スタッフ自身がブランドイメージを作っていく大きな要素なのです。そしてだからこそスタッフが、ある意味経営者のように自分で意思決定しなければならない場面が出てきます。

   そのため、経営者が判断する体制を整えるよりも、最前線のスタッフが自分で判断する体制を整えることが、臨機応変の良いサービスにつながると考えています。自分で考えて、『自分でこれはやるべきなのか、やるべきじゃないのか』、『やるべき時にはどのくらいお金をかけてやるべきなのか』ということを瞬時に判断してもらえるようにしたいと思っています。」

塩﨑 「なるほど。病院でも、受付の人の態度が悪いなどの理由で、患者さんが『もう行きたくない』となってしまうことがあります。その先には本当に良い医者がいるのに。組織の一人一人が『らしさ』を作っていくのですよね。星野リゾートでは、どのように情報共有するようにしているのでしょうか。」

星野 「顧客満足調査から収益の情報まで、スタッフが自分の端末でわかるようになっています。ゴールデンウィークが終わって1カ月経つと、ゴールデンウィーク期間中の満足度が自分の端末で把握できますし、4月の収益も把握できます。情報量に差があって議論すると、議論にならないじゃないですか。『実はこうなんだぞ』と初めて言われても、社員は困ってしまいます。なので、正しい議論をするために、私たち本当の経営陣と最前線のスタッフが経営情報の情報量のレベルを合わせようとしています。」

塩﨑 「経営情報をすべてのスタッフに公開をしてしまうというのは、かなりユニークですね。」

星野 「そこが星野リゾートの特徴だと思います。言いたいことを、言いたい人に、言いたいときに言えるような会社にしていこうと思っています。メールの発信も部門間を越えて自由にさせています。情報の流れになんらルールを持たないようにしているので、他の会社から来た人にとっては一瞬カオスな状況になっているんですけれど、慣れると非常に心地いいんですよね。変な気遣いをしなくていいですから。結果的には社員1人1人に経営マインドを持ってもらうことにプラスになっていますし、それが結果的にいいチームを作ることに貢献していると思います。

   近大では組織内での情報共有という点ではどのようなことをされているのでしょうか?」

塩﨑 「私はとにかく『会う』ことを大事にしています。近大は、北海道から奄美大島まで施設があるので、情報が各施設に溜まってしまいやすいです。かつては総合大学という利点が十分に活かせていないと感じていました。そこで、毎月1回、全国の学部長を集めて昼食会を開いています。それぞれに1000円ずつ出してもらって、昼食を食べながらざっくばらんに好きに話してもらう機会を設けているのです。昼食会の後は、研究のテーマごとに、理系の人が集まったり、理系と文系が集まったりするようになり、オール近大としてまとまってきたと思います。

   あとは、卒業生と在学生とをつなぐイベントとして『近大サミット』を始めました。近大卒の社長を中心とするボードメンバーがさまざまなセッションを行い、在学生も参加して交流します。近大の卒業生は50万人以上いるのです。学長になった当時は「自分も卒業生なんです」と最初は誰も言ってきてくれなかったですが、今では「私もなんです」と言ってくれる方が多くなり嬉しいです。」

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大阪という面白い土地を再び活かす

塩﨑 「星野リゾートが大阪市に進出するということで、特に関西では話題になりました。新今宮駅前にホテルを開業する狙いを教えていただけますでしょうか。」

星野 「正直なところ、土地を取得しただけの段階なのに、あんなに盛り上がるとは思わなかったです。2022年に開業する予定なのですが、皆さんから『ついに星野リゾートが!」という期待と『なぜあの土地に?』という疑問が入り混じった声をいただいています。

   私たちは、新今宮駅前の地域は本来の価値よりも低く見積もられていると感じています。空港や大阪駅へのアクセスを考えると観光客にとって最高の場所なのに、歴史的な背景から悪いイメージが先行しているのではないでしょうか。」

塩﨑 「動物園などもあり、非常によい土地ですよね。」

星野 「ビジネス客にとっては梅田がいい場所ですが、観光客にとっては、大阪“らしい”場所こそ求められているのです。新世界に訪れた際に、あの独特の雰囲気に、非常にわくわくして旅の醍醐味を味わいました。

   私もアメリカに留学したからこそ日本の旅館・ホテルの良さに気づけました。ヨソモノである我々だからこそ出来ることがあると思っています。」

塩﨑 「近大も、2020年の完成を目指し、『超近大プロジェクト』として東大阪キャンパスの大規模整備を行っております。日本屈指の教育・研究環境を誇るキャンパスになる予定です。一緒に関西を盛り上げていけたらと思います。」

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〈関連リンク〉
「星野リゾート・近大から学ぶ、 固定概念をぶっ壊す経営」