偶然がつなぐ、超小型人工衛星への挑戦の軌跡【アクセルスペース 中村友哉】

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)の人工衛星の開発・製造・運用を一括して委託する企業として選ばれるなど、日本の宇宙ベンチャーの中で、きちんと実績を残している数少ない企業であるアクセルスペース。そんなアクセルスペース代表の中村友哉氏に、宇宙事業のこれまでの軌跡についてお話しいただいた。

偶然の出会いから人工衛星への挑戦の道は始まった

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中村 友哉
株式会社アクセルスペース 代表取締役。1979年三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学の博士課程を修了。この間3機の超小型衛星開発に携わる。2008年8月アクセルスペースを設立し、2013年に世界初の民間商用超小型衛星「WNISAT-1」、2014年に「ほどよし1号機」、2017年に「WNISAT-1R」と既に3機の打上げに成功した。2016年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)から革新的衛星技術実証プログラム小型実証衛星1号機の製作を受注。現在50機の衛星群からなる「AxelGlobe」プロジェクトの本格稼働に向けて準備を進めている。

薮崎 「人工衛星事業を始めようと思ったきっかけについて教えていただけますか。」

中村 「大学の時に、学生手作りの超小型衛星プロジェクトと出会ったことから始まりました。もともと宇宙関連の研究をやりたいと思って大学に入ったわけではないのです。むしろ高校の時は化学が好きで、他大学の化学科を併願として出したくらいですから。ただ、東大の教養課程で講義を受けていて、波動方程式が出てきたあたりで、『これはやりたかったことじゃないぞ』となってしまったんです。それで化学の道に進む以外にも選択肢はあるのではないかと考え始めました。化学でない進路を選ぶ場合には高校からやりたかったものを諦めるわけですから、まっさらな気持ちで『何か、本当に自分が興味を持てることをやりたい』と探したんです。わざわざ違う道を選ぶのなら、今、ここでしかできないことをやりたいと思っていました。例えば、『機械系の学科に入ってロボットを作ることは確かに面白そうだけど、今ここじゃなくてもできる』とか、今振り返ると本当に大それたこと言っていたなと思います。ただ当時は本気でそう思って、いろいろな学科を見て回りました。そこでたまたま航空宇宙工学科の先生が研究室の活動を紹介していて、『人工衛星を作っているんだ』というのを耳にしたんです。それがきっかけです。」

薮崎 「人工衛星、と聞いて直感的に『これだ!』と思ったのですか?」

中村 「いえいえ、『人工衛星?大学で?まさか!』とひっかかったんです。普段の暮らしからは縁遠い領域じゃないですか。学生でも作れるなんて考えたこともないし、国の大きな機関が何百億円とかけてやっているというイメージしかなかったので、『自分たちで人工衛星をつくる』ということに対してすごく衝撃を受け、同時に興味を持ったんです。」

薮崎 「確かに、学生が初めて聞いたら突拍子もない話に聞こえるかもしれませんね。」

中村 「2年生が集まって各学部の紹介を聞くオリエンテーションのような場で、その人工衛星研究の話を聞いたのですが、その場にいる学生の2/3くらいは引いていて、残りはけっこう目をキラキラ輝かせて聞いていましたね。」

薮崎 「確かにそういうイメージのつかないような壮大かつ未知の話を聞いたときの反応って、はっきり分かれますよね。未知なものへの許容度というのでしょうか。」

中村 「そうですね。ただ、本当にそんなことできるんだろうか、という疑念はありました。。ネットで調べても、『これなら学生にも作れそう』と思える人工衛星の情報なんてないわけです。だから、『この話が本当ならどうやって作っているんだろう』と思って、実際に研究室を見に行ったんです。」

薮崎 「どんな研究室だったのですか?」

中村 「ありがちな大学の狭い汚い研究室の中で、はんだ付けをしている人がいたり、寝袋でその辺に寝転がっている人もいて、『こんな感じで出来ちゃうんだ』と衝撃でしたね。でもそこでやっている人たちがすごく楽しそうだったんです。目の下にクマをつくりながらも、それ以上に活き活きしているのを感じましたね。本当に衛星を作って宇宙に飛ばそうとしている先輩たちの話を聞いて、ますます興味が膨らみました。もともと宇宙そのものに惹かれていたわけではないのですが、先輩との話を通して『手の届かない宇宙に自分の作ったものが行く』『宇宙で自分の設計した通りに動いてくれる』ということをリアルに感じ取ることができ、エンジニアの卵としてその点に非常に強い興味を持ったのです。このとき、進学先は航空宇宙工学科にしようと心に決めました。」

薮崎 「東大の航空宇宙工学科ということは、相当頑張っていないとその学科には進学できないですよね。私なんかテニスばっかりでした・・・」

中村 「要領はいいと友人から評されていました(笑) 進学したあと、希望の研究室に入るのも狭き門なのですが、その研究室の教授から出されたレポートには力を入れたりして、何とか入ることができました。ただ、ほっとしたのもつかの間、右も左もまったくわかっていない状態なのにもかかわらず『じゃあ明日から熱真空試験だから』と言われて、相模原にある宇宙研(JAXA宇宙科学研究所)の設備で1週間ぶっ続けで試験したりしましたね。」

薮崎 「いきなりとはすごいですね。どのような試験なのですか?」

中村 「真空チャンバーという内部を真空にする容器に衛星を入れて、温度を上げたり下げたりしてもちゃんと動くかという試験です。過酷な試験なのに先輩から『24時間交代ね』と言われて、そのときは正直『そんな!』って思いましたね。そんな中でのスタートでしたが3ヶ月くらいすると、先輩達の言っていることがなんとなくわかってきて楽しくなり、それ以降は人工衛星開発に夢中になりました。もともとアカデミアの方向に進むつもりなんてまったくなかったのですが、衛星開発を続けたいがために、気づいたらそのまま博士課程まで進んでいました。それくらい面白かったんです。」

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ウェザーニューズとの出会いから、アクセルスペースという企業は始まった

薮崎 「研究者になるのではなく、衛星を事業としたのはどうしてなのですか」

中村 「もともと研究者になりたいわけではなかったので、博士課程を修了する時が近づくと、これからどうしたらいいか困るわけです。ただ、超小型衛星を作るのが楽しくて、やはり『衛星を仕事にしたい』という思いがありました。それでまずは『超小型衛星を作っている会社に入ろう』と思ったんですが、そんな会社は世界的に見てもどこにもなかったんです。」

薮崎 「日本だけでなく、世界のどこにもなかったのですか?」

中村 「数トン級の大型の人工衛星は日本でも NEC や三菱電機が作っているんですけど、私たちが大学時代に作っていた重さ数kg程度の超小型となると、世界を見渡してもなかったですね。唯一、アメリカにそういった会社を見つけたのですが、顧客のニーズに合わせて人工衛星自体を作るビジネスではなく、その頃世界中の大学で広まりつつあった超小型人工衛星プロジェクト向けに通信機とか太陽電池を売ったり、打ち上げをアレンジしたりといった、『作る人』向けのビジネスだったんです。私は自分たちが作った超小型衛星を誰かに『使って』もらいたいと考えていたので、その会社も違うと思いました。」

薮崎 「それで起業したのですか?」

中村 「実は最初、起業という選択肢は全く頭にありませんでした。ただその時に、研究室の教授が大学発ベンチャーを支援する助成金を受けているという話を伺い、『そうか、会社を作ればいいのか』と思ったんです。『会社を作ったら超小型人工衛星の開発を続けられる』と考え、その助成金のプログラムに入れてもらい、起業に向けた準備を始めました。」

薮崎 「なるほど、そういうことだったんですね。卒業されてから起業まで少し間を置いていたので、どういうことなんだろうと思っていました。」

中村 「2007年3月に卒業して、会社設立は2008年8月ですので、その間は研究室の部屋を間借りしながら東大の研究者として準備をしていました。」

薮崎 「会社にするからには、開発だけをしているわけにもいかないですよね。」

中村 「その通りです。お客さんがいないとビジネスにならないので、営業を始めました。でも営業の知識なんて全くないわけです。とりあえず『人工衛星を使いませんか』と、正面突破で提案をしに行きました。すると、珍しい商材だからか、話を聞いてくれる企業は多かったんです。ですがやはり、ビジネスにはつながりませんでしたね。お客さんからすると『確かに面白いとは思うけど、自分の衛星を持っても、それをどうやって使ったらいいのかわからないよ』という状況だったんです。実際に『どう使ったらいいの?』という質問を受けても、こちらとしても明確には答えられません。『写真を撮ったり、通信したりできますよ。』くらいなら言えますが、ピンとこないわけです。結局明確なアイデアにつながらなくて、『じゃあ何か考えときますね。また次回。』となって、その“次回”がないというパターンでした。それを何度も何度も繰り返して、気づいたら一年くらい経っていました。そこで覚悟を決め、このままお客さんが見つからなかったら、起業は諦めるつもりでした。もともと会社を作りたかったわけではないですし、お客さんがいないのに無理やり起業しても続くはずがありません。まさに背水の陣でした。」

薮崎 「初期の頃ってそういう感じですよね。思っている以上にうまくいかない。弊社も設立2年目で『本当にもう無理かも』ということがありました。ただ地道にしっかりと出来ることを尽くしていると、次につながる機会に巡り会うものだなと思います。」

中村 「そうですね。『さすがにやばいな』と思っていた頃、ウェザーニューズさんとお会いする機会があったんです。ウェザーニューズさんは、もともとその頃『自社で人工衛星を持ちたい』という希望をお持ちだったので、すごくラッキーでした。」

薮崎 「ウェザーニューズさんはどうして人工衛星を必要としていたのですか?」

中村 「北極海の氷の分布を見るためにいい方法を検討されていました。もちろん既存の人工衛星の画像を買ってくるのが手っ取り早いんですが、それだと費用が高すぎてビジネスにならない。超小型衛星はその目新しさからメディアで取り上げていただく機会も多く、ウェザーニューズさんはこうした衛星なら自前で所有して自由に使うことが可能なのでは、と考えていらっしゃいました。そんな時に、我々が会って話す機会をいただいたのです。お互いに『これでいこう』というプランがまとまるまで半年くらいかかりましたが、ついに2008年8月、超小型衛星の経験者3人でアクセルスペースを設立しました。」

薮崎 「ウェザーニューズさんとはどういう契約だったのですか?」

中村 「共同開発です。当時まだウェザーニューズ創業者の石橋博良さんがご存命でいらっしゃって、石橋さんが『ウェザーニューズとアクセルスペースは発注者と受注者の関係ではなく、一緒に新しい価値を作る同志なんだ』とおっしゃっていただいて、本当によくしてくださいました。」

薮崎 「そうなんですか。人工衛星と言うとやはりコストとリスクがけっこう懸念事項だと思うのですが。」

中村 「石橋さんは『気象という国が主導をして進めてきた業界で民間の力を発揮したいわばパイオニア』です。そのため、同じように国主導の宇宙分野で起業しようとしているアクセルスペースに何かしらを感じてくださって、私たちの挑戦を応援したいと思ってくれたのではないでしょうか。石橋さんの意志として『このプロジェクトは、やらないといけないんだ』と言っていただき本当にありがたかったです。」

薮崎 「すごいですね。オーナー経営者としての気概と矜持を感じます。」

中村 「最初のお客様がウェザーニューズさんで本当によかったです。普通の企業だったらこういったことはありえなかったと思いますし、技術者3人で作った会社ですから誰も経営の知識なんかないわけですよ。プロジェクトが始まって、ウェザーニューズさんから色々なことを教えてもらいました。民間企業というのはこういう風に考えるんだとか、会社に必要な機能とか。そうやって人材も採用できるようになって、本当に少しずつきちんとした会社への道を歩んでいったという感じですね。」

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企業が欲しいのは人工衛星ではなく、人工衛星からのデータという気づきが、19億円もの資金調達、そしてAxelGlobeプロジェクトへとつながる

薮崎 「アクセルスペースの最初の人工衛星は、ウェザーニューズのためのものなんですよね?」

中村 「その通りです。ウェザーニューズさん以外の企業からは『やっぱり実績がないと難しい』とよく言われました。だから、ウェザーニューズさんの人工衛星を打ち上げることで実績ができ、後に続く企業が沢山出てきてくれるだろうと思っていました。」

薮崎 「どうなったのですか?」

中村 「ウェザーニューズの例を示しながら、いろいろな企業に提案してみました。けれども今度は「それはウェザーニューズさんだから出来たんですよ」と言われてしまったのです。結局、いくら実績を作ったとしても何だかんだ言い訳が出てきてしまうのだろうと悟りました。やらない理由はいくらでも言えてしまいます。根本的にアクセルスペースのビジネススタイルを見直さないといけないと思いました。」

薮崎 「衛星を持ちたいという企業がなかなか現れない一番の原因は何なのでしょうか。」

中村 「リスクが一番の問題だと考えました。自社で衛星を所有して打ち上げるとなると何億円もかかりますし、何年もかかってしまいます。なので、そのリスクはアクセルスペースが衛星を打ち上げることで解決し、データを提供すればいいのだと考えたのです。」

薮崎 「なるほど。人工衛星はあくまで手段で、企業が求めているのは衛星からのデータだということですね。ただウェザーニューズさんは、そのデータが高価だったから自社で衛星を持つという判断に至ったと思うのですが、アクセルスペースさんはどういう新しい価値を提供するのですか。」

中村 「そこで計画したのがAxelGlobe(の原型となるアイデア)で、たくさんの超小型人工衛星を打ち上げて地球を高頻度に観測すれば、これまでになかった価値が出ると考えています。その事業計画書をもとに、ベンチャーキャピタル(以下、VC)への提案を行い、最終的にはVC7社、民間企業としては三井物産やスカパー、そしてウェザーニューズさんから出資をいただいて、2015年に19億円もの資金調達ができ、AxelGlobeプロジェクトの本格始動が始まったのです。」

薮崎 「VC だとバリュエーションや期間がなかなか合わないんじゃないですか?」

中村 「必要な資金もIT ベンチャーと比べて大きいですし、エグジットまでの時間は長くなってしまうので、これまでの投資とは全然違うと思うのですが、その中でもそういった特殊性を理解していただき可能性を感じていただくことができた結果だと思っています。

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