薮崎 「ニューリテールとして、衣食住、文化、テクノロジーと幅広く事業を展開されていますが、やはり今後も中心となるのは衣、つまりアパレルだと思います。アパレル領域での今後の挑戦について教えてください。」
石川 「すでにグループで30ブランドに加え、MECHAKARI(メチャカリ)、STRIPE DEPARTMENT(ストライプデパートメント)というプラットフォームを持っていて、老若男女全ての層をカバーしています。アパレル領域に関して言えば、ファッションに関わるデータを、一番持っている会社になりたいと考えています。」
薮崎 「ZOZOTOWNを運営しているスタートトゥデイがZOZOSUITを出すなど、アパレル領域において顧客データを獲得するための取り組みが活発になっているように思います。ストライプインターナショナルとして、どのようなデータが重要と考えているのでしょうか。」
石川 「子供、若者、大人という3つの年齢セグメントと新品、中古、レンタルという3つのサービスセグメントを掛け合わせた9つのマトリックスで考えています。この9つのマトリックスに対して、プラットフォームを作っていきたいのです。」
薮崎 「なるほど。積極的にプラットフォームとなるサイトを立ち上げているのはそういうことだったのですね。」
石川 「そうなのです。2年ほど前に、『smarby(スマービー)』という子供服の通販サイトの企業をM&Aしています。そしてもともと、ストライプインターナショナルが運営している『STRIPE CLUB(ストライプクラブ)』というのがF1層(20~34歳の女性)向けのECサイトで、今回立ち上げた『STRIPE DEPARTMENT』は他社のブランドだけを売るプラットフォームになるので、これで0歳から60歳までデータがつながるんですよね。ファッションに関わりの強い人たちのデータを、60年分持てる会社になるので、これは強みだと思っています。」
薮崎 「まさにゆりかごから墓場までですね。」
石川 「デジタルマーケティングなどを強化して、こうしたデータを活用することで、できる幅は広がると考えています。」
薮崎 「アパレルにおいて新品や中古品の販売が一般的で、普段の服をレンタルするというサービスはそこまで多くないですよね。」
石川 「そうですね。たとえば、メチャカリは、月額5,800円で“新品の服が借り放題”というファッションのサブスクリプションサービスです。」
薮崎 「すべて新品の服なのですね。やはり服は耐久性の問題があると思うので、新品で届くというのは面白いです。メチャカリというサービスは、どういう経緯で作られたのですか?」
石川 「言ってしまえばあたりまえのことなのですが、ストライプインターナショナルのサービスは、『困っている人を何とかしたい』という思いから全てが始まっています。」
薮崎 「メチャカリの場合は、どのような困りごとがあったのでしょうか。」
石川 「3つのグループの困っている人たちを助けたいという思いから始まったんです。一つ目のグループは、地方に住む高3の子たちです。毎日学生服で学校に通っていて、『大学・専門学校に受かったらどんな服を着て学校に行けばいいのかわからない。』という悩みを持っていました。その子たちの周りにはもちろんおしゃれな友達もいて、『月1回くらい日曜日にプライベートな服を着て友達と遊ぶだけでも、自分のファッションが変じゃないか気にしていたのに、これから大学や専門学校に行ったら、毎日毎日ファッションのコーディネートを考えないといけなくて、それが不安でたまらない。しかも服を買うお金もそんなにないので、どうしたらいいんでしょうか』というような相談を受けたのです。」
薮崎 「友達の目は気になるけれど、ファッションセンスにも自信がないし金銭的にも余裕がない、という困りごとですね。」
石川 「そこで僕が『じゃあたとえば、5,000円ちょっとで借り放題で、しかもモデルが着ている服をセットでそのまま借りられるとしたらどう?』と聞いたら、その子たちは『そんなサービスがあったら、絶対使います。』と言ってくれたのです。そういう高3の子が、大学に毎日私服で通わなければならなくなるタイミングで役立つかなと思ったのです。」
薮崎 「なるほど、本人たちにしてみると、大きな変化のタイミングですね」
石川 「そうですね。2つ目のグループは、大学4年生の子たちです。いつもデニムとTシャツで学校に行っているような子たちは、内定が出て、たとえば4月から丸の内に勤務が決まったとなると『履いたこともないような膝丈スカートや着たこともないようなアンサンブルを着ることになるし、どう選んだらいいかわからない』と困ってしまうそうのです。そこで先ほどと同じように、『丸ごと借りられるサービスがあるとどう?』と聞くと、『こういうサービスがあると助かります!』と言ってくれたのです。それで、大学4年生が新社会人になる瞬間にも役に立つことがわかりました。」
薮崎 「確かにそのタイミングもガラッと生活が変わりますね。」
石川 「そして3つ目のグループなのですが、ずっと丸の内でバリバリ働いて、セレクトショップやデザイナーズブランドなど自由にお金を使って着ていたけれど、結婚して子供ができて・・・という人たちです。住宅を買ったり車をファミリーカーに替えたり、子供も塾や習い事などをさせたりすると、お金に余裕がなくて自分の洋服代を倹約するしかありません。そういった方に、『たとえばファッションビルで売っていたような服を、借り放題できるとしたらどうですか』と聞くと、『そういうのを待っていました!』という反応だったのです。」
薮崎 「そもそものサービスのストーリーが、『服選びの面倒をなくす』ではないのですね。だからこそ中古品ではなく新品を届けるサービスになっているし、そこが他社のサブスクリプションサービスとは異なっているところなんだなと思います。」
石川 「なので、ティーンズやF1(20~34歳の女性)の入口に立った人、F2(36歳〜50歳の女性)の入口に立った人に悩みがあって、それを解決できるというのがメチャカリなのです。その方たちが喜んでくれている間は、サービスの存在意義があるかなと思っています。」
薮崎 「ただそうすると、ビジネスモデルとしてどのように利益を出していくのでしょうか。」
石川 「2方面からお金をいただくモデルにしています。まずはサブスクリプションとして月額5,800円をいただいて、返ってきた服をストライプインターナショナルのユーズドサイトで販売しているのです。ユーズドサイトではだいたい定価の半額くらいで販売できます。そのため、メチャカリでお客様から定価の2割くらいいただいて、ユーズドサイトのお客様から定価の5割くらいいただいているので、両方足すと7割くらいになるのです。2人のお客様で、1つの服という資産をシェアしていただくというイメージですね。」
薮崎 「利益率的には良いのでしょうか?」
石川 「アパレル業界の平均値引き率は4割なので、たとえば定価が1万円の服でも、結局は6,000円しか回収できません。そうした状況に比べると、店舗を構えるよりも値引き率が低くできる仕組みになっています。さらにWEB上で販売しているので、イニシャルコストや賃料などのランニングコストもいりません。ただ運用人数が多いので、ある一定のところまでいかないと黒字転換はしないんですけれど、現時点で9,000人ぐらいまで会員がいて11,000人が転換点なので、2018年の秋か冬くらいには黒字化すると予想しています。」
薮崎 「けっこうなペースで増えていくんですね。」
石川 「そうです。最近はメンズも始めたことで会員がさらに増えてきていますし、将来的には、子供服も増やしていきたいなとは思っています。いろいろなファッションのサブスクリプションを、どんどん身近なプラットフォームで挑戦しようと考えているんです。」
薮崎 「最近発表されたストライプデパートメント(以下、ストデパ)も面白いサービスだなと思いますが、その構想についてお聞きできますでしょうか?」
石川 「ストデパは、2月15日にスタートしたのですが、ECで選んだ商品を3着まで自宅で試着できます。そして合わないなという商品は、8日間は無料で返品可能という仕組みです。商品ラインナップの特徴として、百貨店で扱うような比較的高価格なアパレルブランドを販売しています。」
薮崎 「どういう困りごとから、今回の立ち上げに至ったのでしょうか。」
石川 「都会に比べて地方だと、百貨店ですら、置いてあるブランドの数が一桁違ってくるんです。たとえば、岡山の高島屋には、レディースのブランドがだいたい35ブランドくらいしか入っていないんです。大阪の梅田に行ったら500ブランドくらいもあるのに、岡山に住んでいるというだけでたった35ブランドから選ばなきゃいけない。それに、百貨店がないからバスで3時間半かけて買いに行かなきゃいけない、というところもけっこうあります。だからこそ、テクノロジーを使ってポケットにデパートを入れられるようにしようと考えたのです。」
薮崎 「目標としてはどれくらいのブランドを集める予定なのでしょうか。」
石川 「将来的には3,000ブランドをストデパに入れるように考えています。伊勢丹新宿と阪急梅田を合わせると3,000ブランドくらいなので、ポケットに阪急と伊勢丹を入れてあげようというのが、僕たちの目標です。」
薮崎 「世の中にそんなにブランドがあるんですね。デパートで見るくらいしか想像がつかないので、100〜200くらいしかイメージがつきません。」
石川 「けっこう埋もれているんです。どんどんブランド数は減らされていて、いわゆる百貨店向けのアパレル業者さんが退店させられて、事業規模がシュリンクして首の皮一枚でつながっている事業者さんもいっぱいいると思います。そこもストデパでなんとかできるんじゃないかなとは思っています。」
薮崎 「ウェブ上に百貨店ができれば、敷地は無限ですからね。今はどういう方法でブランドを集めているのでしょうか。」
石川 「実は、ストライプインターナショナルはF1(20~34歳の女性)向けのブランドが強いということもあり、ストデパには自社ブランドは一点も出品していません。そのため、百貨店の役員で、かつ百貨店協会の理事をされていた方に入社いただいて、ストデパに参加いただけるブランド集めを推進してもらっています。百貨店協会というと 各創業会長社長がみんな軒並み登録している団体なので、そこの理事が営業をかけたので、スタートからいっきに600ブランドくらいに参加いただけました。2018年内には1,000ブランドになる見込みです。」
薮崎 「すごいですね。」
石川 「プラットフォームなのでUUを上げないといけないのですが、そのためには、何よりもブランド数が充実しているかどうかが大事で、今のところ3年で2,000ブランド、5年で3,000ブランドが見えてきたかなと思っています。」
薮崎 「デパートメントとサービス名をしていますが、ブランドとしては少し高めに設定しているなという印象です。コアとなるターゲット層はどこになるのでしょうか。」
石川 「F2層(36歳〜50歳の女性)ですね。ストデパを始めた背景として、F2層のガラケーからスマホへの移行がこの2、3年急激に加速していて、すでに50%以上がスマホ持ち始めています。ティーンズとかF1層だとあたりまえだったんですが、今までPCで買い物をしていた人たちがスマホで買い始めているので、一つの潮目かなと感じています。」
薮崎 「私の妻も一切PCを使わなくなりましたね。スマホで普通に買っています。」
石川 「ですよね。特に40代前後の女性はそうなっています。F2層が、スマホデバイスの扱い方を習熟したということだと思います。今までは『F2層は他の世代に比べて新しいテクノロジーに慎重な人が多く、ガラケーやPCをメインで使っている』ということで、これまでITベンチャーは、こぞってF1層向けのサービスを立ち上げていました。アパレルブランドが苦しんでいる課題が浮き彫りになってきていて、さらに課題だったテクノロジーに強くない世代が テクノロジーリテラシーを身につけ始めたという、この2つの現象が重なり合ったタイミングだと考えています。」
薮崎 「ターゲットへのリーチと囲い込みはどのようにされているのでしょうか。」
石川 「ストデパは、ソフトバンクとのジョイントベンチャー(戦略的提携)なんですけれども、これでF2層の800万人くらいはリーチできるんじゃないかなと思っています。携帯電話ユーザーは、ドコモとauとソフトバンクでだいたい3分割されているので、人口の1/3である3600万人くらいがソフトバンクユーザーだと考えています。そして、その中でターゲットとなる層に対しては、デジタルマーケティング(以下、デジマ)でどんどんアプローチしていきたいと考えています。ソフトバンクが今デジマをすごく強化していて、たとえばいろいろな媒体の広告枠を買っていて、ファッション雑誌の Web メディアの下の広告欄などの枠を山のように持っています。その広告枠でテストしていけるし、それで相性がいい枠に絞り込んでいくことを考えています。
薮崎 「ソフトバンクと組んでいるんですね。Yahoo!は絡んでくるのですか?」
石川 「Yahoo!との連携も考えています。たとえばYahoo! ショッピングの出店などです。送客という点で、ソフトバンクと組んでいる1つのポイントなのです。」
薮崎 「なるほど。他にもどういう点でソフトバンクとのシナジーを考えていますか?」
石川 「そうですね、他にはやはり様々なテクノロジー連携があると考えています。ソフトバンクにはグループ会社が300社くらいあり、VRやAR、AIなど様々なテクノロジーを持っています。こうしたテクノロジーを、プロモーションなどに活用できるのではないかと思っています。お互いが自社にはない価値を提供し合って、このストデパを盛り上げていけたらいいですね。」