不確実な世の中で、経営者は進むべき道をどう決めるべきか:一橋大学・楠木建

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世の中の変化はますます激しくなり、経営を取り巻く環境は、明日をも予知できないほど不確実性が高まっている。そんな中、経営者はどうやって会社の目指す道を決めればいいのか。大ベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』の著者である、楠木建教授(一橋大学)にお伺いした。

経営者に必要なのは“未来予測”ではなく、論理的な確信

薮崎 「企業の目指すことを社員に話す時、3年先くらいが一番いろいろな要因が絡んでくるので、きちんと正確に言おうとすると前提条件をつけなければなりませんし、抽象的な話になってしまいます。一方で、一般的に求めているのは、そうした前提条件などを全てそぎ落とした『こうすれば上手くいくんだ』という単純化した具体的な話ではないでしょうか。ここのギャップをどう埋めたらいいか難しいなと感じます。」

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楠木 建
一橋大学教授。専門は競争戦略。著書に『「好き嫌い』と才能」(東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たったひとつの仕事の原則』(ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)など。

楠木 「伝えるべき戦略は、最終的には『こうすれば儲かる』というストーリーです。ただ、不確実性はどうやっても排除できません。“やってみないとわからない”というのが本当のところです。私見では、戦略を立てる経営者にとって、その時点で拠り所となるのは『論理的な確信』しかない。それは、『将来起こることが他の人よりもわかっていて、こうやったらうまくいく』という未来予測能力ではありません。超能力者でない限り、誰も未来は分からない。つまり、外的な条件から最適な解としての『こうなるだろう』を導くのではなくて、『こうしよう』という意志の表明、これが戦略だというのが僕の考えです。本当のところはどうなるかやってみなければわからないけれども、これで絶対にうまくいくはずだと信じることができる。これが経営者にとって大切で、それはすなわち『論理的な確信』としか言いようがないものです。」

薮崎 「不確実で複雑な外的要因に答えを求めるのではなく、自分にとっての論理的な確信を得ることが重要なのですね。」

楠木 「だいたい、トランプが大統領になることがわからなかったくせに、どうして3年後や10年後の経済予測ができるのか。優れた経営者を見ていますと、自分なりの論理的な確信がある。だからブレない。実際にやってみたら、当てが外れることも多々あります。それは事後的に修正するしかない。最初から正解・勝率が高い方法を探すことは、外在的な要因がありすぎて無理があります。これから世の中がどうなるのかを知らないと戦略を立てられないという人は、一流の経営者ではないんじゃないかなと思います。」

薮崎 「なるほど。理想や正解を追い求めて、結局何も決められない経営者はいますね。とにかくやるしかないと決めてがむしゃらに取り組む人の方が、いい結果を出したりします。」

楠木 「そうですね、ただ、いずれにせよ経営者は頭がよくないといけないと思うんですね。それは学歴ということではありません。論理的な思考力ですね。それがないと論理的な確信も得られない。『こうすると、こうなる。そうなると、今度はこれができるようになる』という因果の論理でつながった思考の奥行き、これがあるかどうかがカギだと思います。一つ一つの打ち手において論理がつながって出来上がっていくものを、『ストーリーとしての競争戦略』と僕は言っています。戦略ストーリーの構想は『50gと100g、どっちにしますか』という単純な尺度上での意思決定ではないので、どうしても論理的な思考力がないと組み立てられないのです。思考に抽象度が求められる、と言ってもよいですね」

薮崎 「抽象化・概念的して論理的に考える人とそうでない人の差はどこにあるのでしょうか?」

楠木 「具体と抽象の往復運動ができるかどうかだと考えています。いつの時代も人間は具体的世界の中で生きている。ビジネスはとりわけそうです。具体的から切り離された抽象は意味がない。しかし、具体べたべただとオリジナルでユニークな戦略ストーリーは生まれない。抽象化の思考を自然と楽しめるかどうかですね。『TVのバラエティ番組は好きだけれども、ちょっと映画はしんどいな』という人がいたり、『YouTubeは見るけれども長編小説は読まない』という人がいますが、これは抽象化能力の一つの表れだと思います」

薮崎 「以前、伊丹敬之氏の『経営を見る眼』という本を読んで、良い本だなと思ったので社員に薦めたのですが、概念的すぎて誰も良いと言ってくれなかったということがありました。」

楠木 「あれは良い本ですね。しかし、抽象化・論理化の力がないと良さが分からない。結局のところ、関心とか視座の高さとかがそれぞれ異なるので、その人にわかってもらうには、その人にあったものを用意するしかないと思います。」

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全員にわかってもらうために、自分の考えの解像度を落とすことは絶対しない

薮崎 「楠木教授は、様々なメディアに寄稿されていらっしゃいますが、抽象的な話を経営者以外にしたときの反応はどうなのでしょう?」

楠木 「雑誌やウェブなど様々なメディアに、自分の考えを書いたりしています。直接会って話しているわけではないので、反応はリモートでしかわかりません。わざわざ感想を送ってくれる人は大半が批判ですね。お客様相談室に電話するのは製品に問題があったからだというのと一緒で、『まあそういうものだ』と思っています。」

薮崎 「記事は経営者だけでなく経営者ではない人も読むと思うのですが、それぞれ異なる視座の人に対して、どのような伝え方の工夫をされていらっしゃいますか?」

楠木 「自分が考えていることが一番歩留まりよく伝わるようにしています。自分が考えていることが100だったら、言葉にすると100は無理でも、ロス率をなるべく低くして85ぐらいで出したい。そのために文章や構成を一生懸命考えますね。ただ大前提としてあるのが、全員に理解されなくても全く構わないという割り切りです。わかる人がわかってくれればいい。もし『全員にわかってほしい』と思ったら、自分の言葉や考えの対象、説明の内容を変えなきゃいけないですよね。僕なりに追求している思考と言葉の解像度を落としてでも自分の考えを人に提供することだけはしないようにしています。量は求めない、ということです。たとえお客様の数が限られても、読んだ方の心や頭になるべく長く残るもの、そういうものを提供したいですね。ベストセラーよりロングセラー。それが僕の仕事の重要な基準です。」

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ストーリーとしての競争戦略をいかにして立てるか

薮崎 「ファーストリテーリングのお手伝いをされていらっしゃいますが、戦略にストーリーがあるので、対外的にも理解されやすいだろうなと思います。」

楠木 「『ライフウエア』というコンセプトは、確かにすごいと思います。洋服の世界だとまったく独自。ファストファッションと明確に差別化されています。だからと言って、『ライフウエア』は従来のカジュアルウェアでもない。部品としての服ということです。普通の人の普通の生活の構成部品として、最も優れたものをつくり、時間をかけて進化させていく。そこには新しい生活提案が盛り込まれていて、服を通じて世界中の人々の生活を変えて行こうというメッセージがはっきりと打ち出されている。このポジションは競争相手と一線を画しています。戦略ストーリーの起点にあるのコンセプトとして実に秀逸ですね。」

薮崎 「グローバル化に伴い、世界中の企業が競合になりました。ユニクロのような強いストーリーを作るために、日本企業が取り組むべきテーマはあるのでしょうか。」

楠木 「『日本企業』という主語にはほとんど意味がないと思っています。確かに、高度経済成長期では、『日本企業』という括りでそれなりに意味のある議論ができていたかもしれません。しかし今の日本は、すでに成熟した国です。日本の中でのバリエーションが大きい。人間で例えると、中学生のクラスで『個性があるね』なんて言っても、しょせん中学生、みんな同じようなものです。それが40年経って同窓会なんかで集まると、人それぞれ、すごくバリエーションが広がっている。
高度成長期は青春期なので、それぞれの会社に個性があってもだいたい同じ方向を向いていた。でも日本はもうすでに“成熟した大人”です。新日鐵(新日鐵住金)SHOWROOMは一緒に考えられないですよね。そろそろ日本企業の競争戦略とか日本企業の強み・弱みとか、日本の会社を一括りにした話はやめたほうがいい。それぞれの企業がそれぞれの企業のストーリーで勝負する。考えてみれば当たり前ですが、あらためて個別企業の経営力が問われる時代になったということです。」

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※インタビュアー:薮崎 敬祐(やぶさきたかひろ)株式会社エスキュービズム代表取締役社長 2006年にエスキュービズムを創業し、IT、家電、自動車販売など様々な事業を展開。「あったらいいな」ではなく「なければならない」領域に、新しい仕組みを提案している。

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